ホタル資料室


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沖縄県指定天然記念物 "クメジマボタル" について

琉球列島でただ一ヵ所久米島だけに棲息するゲンジボタル、それがクメジマボタルです。沖縄県の天然記念物に指定されています。

 

クメジマボタルの光は神秘的であり、一度見るとその輝きの記憶は一生の思い出になります。雄は一斉に光りながら飛び立ち、クリスマスツリーの電飾さながら、集団で光りをシンクロさせる集団同時明滅を行い、雌は明け方に光りながら移動して川辺のこけなどに集団産卵するという他のホタルにはない特徴を持っています。

 

腹部に水陸両用の呼吸器官を持つ幼虫は水中生活をします。川に棲む巻き貝のカワニナを食べて大きく成長し、翌年3月頃、光りながら川辺に上陸、土の中で蛹になります。早いところでは4月上旬には成虫が出現、じんじんの童歌で有名な陸生のクロイワボタルやオキナワスジボタルとともに、5月上旬頃まで観賞できます(陸生のホタルは5月中旬頃までたくさん見られます)。ホタルは幼虫時代にたくわえたエネルギーで成虫時代を乗り切るため、羽化後の寿命が非常に短く、雨つゆだけでしのぐため雌は10日ほど、雄は6日前後の命と言われています。 

 

クメジマボタルの近縁種ゲンジボタルは、本州、四国、九州に棲息しています。求愛行動はクメジマボタルに似ていますが、集団同時明滅に地域差(方言)があります。本州の東日本では4秒に1回でゆっくり明滅し(のんびり型)、西日本や四国、九州では2秒に1回で早く明滅します(せっかち型)。また、両地域の境界付近に棲むホタルは3秒に1回(境界型)という特徴があります。

 

クメジマボタルでは明滅の間隔が2.5秒~4秒間隔(中間型)であり、その間隔はきっちりと決まっておらずアバウトな明滅状態を示します(別名テーゲー型)。色彩もゲンジボタルの前胸がピンク色であるのに対し、クメジマボタルはだいだい色です。これらの特徴はクメジマボタルの方がもともとあった特徴である(祖先的である)と考えられています。

 

近縁種ゲンジボタルとの分岐年代も相当古く、およそ1500万年前にさかのぼる可能性があります。キクザトサワヘビ同様(県指定天然記念物で久米島固有種、種の保存法による国内唯一の生息地保護区がある)極めて重要な種類であると言えます。

ホタルの楽園、久米島を復活させる取り組み

昔、米づくりがさかんであった頃、芋にホタルを閉じこめて本を読んで勉強したという久米島では、島固有のホタル童謡(子守歌)も歌われていました。

 

 ♪ 山のくみじる (米汁即米磨汁の事か)

 ♪ てー、たー、みー、よー (ひい、ふう、みい、よう)

 ♪ 高山の水くわて (高山の水のんで)

 ♪ 落てれよ じんじん (落ちろよ 蛍)

 ♪ さがれよ じんじん (さがれよ 蛍)

 

 ※左側が童歌で右側は対訳です(平凡社発行 島袋全發著「沖縄童謡集」より引用)

 

しかし、昔はたくさん見られたクメジマボタルの光も現在は極めて少なくなりました。その原因は、水田を中心とした里山環境が、赤土とともに肥料(土壌)や農薬が大量に流出する農耕地へと変化したことがあげられます。残念ながら赤土の影響のない川は、島ではほとんど見られません。とりわけ、島最大の河川である白瀬川への赤土の流出は深刻です。かつて、下記のように歌われた川の面影は、今では歌の中でしか知ることができません。

 

「幾年よ経ても にごりないぬものや 白瀬走(しらせはい)川(かわ)の 水のかがみ」

 (長い年月がたっても、にごることのない美しい清流白瀬川よ、まるで水の鏡のようだ。人の世もこうありたいものだ)

  

昔、島中、田んぼだらけであった頃、山のくみ汁と呼んで大切にした、大雨の際に森からあふれだす栄養分にとんだ白濁水。それが満ちたダム湖を駐留米軍はミルクレイクと呼びました。

 

その名の様に白い濁流となる白瀬川をもう一度、復活させるために私たちは行動を起こし始めました。現在では牧草地の改良事業を含む公共工事からの赤土の流出はほとんどなくなりました。現場の赤土対策と管理が徹底して行われる様になってきたからです。しかし、まだ多くのサトウキビ畑や一部の牧草地の改良事業では、現在も赤土流出が続いています。多くの方々の努力がみのるのは、この先5年、10年の年月を必要とするかもしれません。しかし、いずれは赤土が流れなくなる日が来ると確信しています。

 

また、生活排水・産業排水の不適切な処理、危険な化学物質を含んだゴミが長期間にわたり投棄され続けてきたという事実もありますが、近年、解決へ向けての地道な取り組みとして、長年放置されてきたゴミを徹底して回収する作業も始まりました。生活排水を下水道につなげる各家庭の努力も広がるでしょう。

 

陸地(ほたる)から始まる環境破壊を最前線でくい止めていくことは、破壊されたサンゴの海を確実に復元することに結びつくという認識も少しずつですが浸透し始めています。

最新 久米島・沖縄のホタル2006 (佐藤文保&川島逸郎)

【ホタルの種類 】                      【分布】

1)オキナワクシヒゲボタル・・久米島、伊平屋島、沖縄島、渡嘉敷島

2)クメジマミナミボタル・・・久米島

3)シブイロヒゲボタル・・・・久米島

4)クロイワボタル ・・・・・・奄美大島、沖縄島、久米島

5)クメジマボタル・・・・・・久米島

6)オキナワスジボタル・・・・沖永良部島、沖縄島、渡嘉敷島、座間味島、久米島

7)オキナワマドボタル久米島亜種 ・・・・久米島

 (クメジママドボタル)


オキナワクシヒゲボタル

沖縄諸島固有の種。成虫は黒みを帯びた赤褐色、幼虫は黒色です。成虫は発光しませんが、幼虫は発光します。体は小さく(7.8mm)、成虫、幼虫ともに野外で見る機会が少ない種類です。雄の触角は発達し、節ごとに短い2本の枝が生じているので、全体としては「櫛ひげ」状になっています。雌は後翅があまり発達せず、腹部が大きくふくれています。雌が放つにおい(フェロモン)を雄が触覚で感知して探すと思われます。成虫は2~3月にかけて主に出現します。幼虫は、ふだん落ち葉の下や地中生活をしているようで、時々雨降りの後などに地上に出現することがあります。幼虫が湿り気の多い場所を好むためか、成虫も川筋や森の林床、林縁で見つかります。



クメジマミナミボタル

日本では、とりわけ琉球列島に多く生息しているミナミボタルの1種で、2005年に新種として名前が付いたばかりの小形のホタル。成虫は発光しませんが、幼虫はよく発光します。久米島固有のこの種は、前胸の色が黒褐色から赤色、褐色といった変化があり、上翅は全体に朱色から黄褐色まで変化が見られます。体は小さい(7.8㎜)のですが、活動的なことに加え、その色彩から、野外でも比較的目立ちます。雌が放つにおい(フェロモン)を雄が触角で感知して探すようです。成虫の出現は2~3月にかけてですが、時折4月まで見られます。幼虫は光りながら活発に活動し、下枝や草上にもはい上がります。驚くと、丸くなって落下します。ヤマタニシやカタツムリをよく襲い補食します。



シブイロヒゲボタル

日本では琉球列島以外には生息していない異色の仲間・ヒゲボタルの1種で、久米島固有。とても目立つ赤い色をしたヒゲホタルの幼虫は、ミミズを襲って食べます。久米島固有種のシブイロヒゲボタルは最近(1999年)記載されたばかりです。ただし、この赤いホタルの幼虫は握っていると噛み付くことがあります。   噛み付かれた人の話では蜂よりも痛いらしいので注意が必要です。成虫は11~12月にかけて出現します。昼間も夜間も活動します。雄は腹部先の2点のスポット状でわずかに光ります。雌もぼんやりと光を放ちます。雄は触角が発達し、節ごとに長い枝が1本ずつ伸びているため、野外でもこの「ヒゲ」はたいへん目立ちます。雌が放つ匂い(フェロモン)を感知し、雌を探しているようです。雌は白く、翅がまったくない芋虫型で地中生活し、雄を呼ぶときだけ地表に出てきます。



クロイワボタル

中琉球(奄美諸島と沖縄諸島)固有種。胸は橙色の体長5㎜の小さなホタルです。雌の後翅はあまり発達せず、ほとんど飛びません。雄は雌を探すために、低いところ(高さ1~2m)を活発に飛び回ります。その際、ピカピカと1秒間隔で強く点滅発光するため、非常に印象的な光景となります。沖縄の童謡、蛍の歌「じんじん」のモデルにもなっており、いかにも沖縄らしい情緒・景観を醸し出す一役を担っているかのような、とても愛らしい種類です。4月中旬~5月に発生(場所によっては3月下旬に出現)。他の季節にも時々出現します。



クメジマボタル

久米島の固有の水生種。胸は橙色の体長雄14~16mm、雌16~18mm大きなホタルです。4月~5月上旬に見られ、とりわけ4月中旬から下旬にかけて多く出現します。沖縄県の天然記念物で、世界中でも久米島だけに生息し、絶滅が心配されている種類です。幼虫は水中生活者でカワニナを補食します。2~3月頃上陸し、川辺の土の中で蛹化します。雄は川沿いで集団同時明滅を行い、雌を呼びます。本土西部のゲンジボタルなどと比べても、同時明滅の間隔はいかにもノンビリした印象で、2.5~4秒で一定しない「アバウト」(中間型・祖先型:沖縄方言でテーゲー型)です。雌は明け方に一斉に光りながら移動し、2秒間隔で明滅しながら川辺の苔や倒木などに産卵します。40分~2時間の短い時間帯の集団産卵です。産卵数は約300~500卵です。童歌「山のくみ汁」のモデルになっています。卵、幼虫、蛹、成虫といったすべての成育期間で光ります。世界的にも有名となっている水生ホタルの1種として、久米島の豊かで清らかな流れを象徴する種といえます。



オキナワスジボタルボタル

沖縄諸島と沖永良部島の固有種。胸は黄色の体長7㎜の小さなホタルです。上翅によく隆起した筋があるのでこの名がつきました。雄が光って飛ぶ姿も、あたかも空に筋を引くように見えます。雌はおよそ2秒間隔で発光します。時には3月中旬から11月ごろまで長く出現しますが、4月中旬~5月頃(春から梅雨時期)と晩夏の頃(低気圧の通過・停滞時期)に多く、出現期がとても長いのが特徴です。幼虫の色は白く、地表近くや土中で生活し、主にキセルガイの仲間を食べる陸生のホタルです。クロイワボタルとともに、沖縄の童謡、蛍の歌「じんじん」のモデルにもなっています。



クメジママドボタル (オキナワマドボタル久米島亜種)

クメジママドボタルの雄は、3月下旬~4月にかけて出現し、昼間活発に飛翔するホタルです。オキナワマドボタルの久米島固有の亜種になっています。約1cmの大きさで、胸の赤みが強い橙色でとても目立ちます。光はとても弱いので、夜間見つけることは難しいホタルです。雌は翅が退化しており、飛ぶことができません。雄は触角が長く発達し、雌が放つ匂い(フェロモン)を手がかりに雌を探します。幼虫は主に地表で生活し良く光り、比較的乾燥にも強いので家の庭でも見つけることができます。久米島には、沖縄本島にいるオキナワマドボタルと姿の似たタイプのマドボタルも生息しています。前者を久米島型、後者を沖縄型(亜種内の型)として便宜的に区別しています。このホタルのこうした点においても、島ごとの個性が反映されているのかもしれません。